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2023/4/15お役立ち情報

日本建築を学ぶⅤ ~伝統構法の土壁と左官・間仕切り~

今までに、古民家とはどういうものを指し、どういう屋根で、どういう基礎をしているのか、そしてどんな構造なのかをそれぞれ学んできました。
そして、今回は『壁』はどう造られているのかを学んでいこうと思います。
日本建築を学ぶ ~古民家と現代住宅の違いとは~
日本建築を学ぶⅡ ~茅葺屋根と現代屋根の違い~
日本建築を学ぶⅢ ~伝統構法の石場建てと在来工法の基礎工事の違い~
日本建築を学ぶⅣ ~木造建築の構造とこれからの可能性~

【伝統構法での壁と現代の壁の相違点】

日本の伝統的な建築構法境界と現代の家屋境界にはいくつかの違いがあります。以下にその違いをいくつか挙げてみます。

① 素材の違い

伝統的な建築構法の壁は、和紙や漆喰、竹、木材などの自然素材が多く使用されます。現代の家の壁は、石膏ボード、レンガボード、プラスチック、アルミニウムなどの人工素材が使用されることが一般的です。
② 形状の違い
伝統的な建築構法の壁は、障子や襖などの引き戸を使った可動式の建具が多く、間仕切りを自由に変えることができます。
現代の家屋の壁は、一般的に固定された壁が多く、間仕切りの変更が難しい場合があります。

③ 耐久性の違い

伝統的な建築構法の壁は、柔らかい素材を使うことで地震などの自然災害に強く、通気性や調湿効果に優れています。
現代の家の壁は、強度や防音性、断熱性などが重視され、それに合わせて素材や構造が選ばれています。

④ 装飾の違い

伝統的な建築構法の壁は、漆や彫刻、絵画などの装飾が施されることが多く、美しく仕上げられています。
現代の家の壁は、シンプルで機能性を重視したデザインが多い傾向があります。

一つ一つを丁寧に造り上げていた時代と安定した品質をより早く、そして効率よく造ることを求める時代とでは、焦点が違うためそれぞれの良い点があります。

 

※参照:松崎町観光協会

 

【伝統構法の土壁の造り方】

古民家に興味を持ちだしたころ、職人さんに古民家で一番良い点は何だと思いますか?という質問をしたことがあります。
そして多くの職人さんが『空気が澄んでいること』と答えられました。
なぜ空気が澄んでいるのかと聞くと『家が呼吸しているから』と教えてくれました。
その一つの要因が土壁のようです。
材料が全て天然素材で、ただ固めるのではなく、空気を含み、呼吸を続けられるように下記のように造られています。

 

※参照:土壁ネットワーク

① 土壁を作るためには、土や砂、わら、米ぬかなどの素材が必要です。 これらを混ぜ合わせて、均一な土混合物を作ります。

② 土混合物を竹筒や木枠に流し込み、厚さ30~40cmほどの壁を作ります。この状態で、表面を整えておきます。

③ 次に、わらを敷き詰め、その上からさらに土混合物を流し込みます。 これを何度も繰り返すことで、わらを含んだ丈夫な土壁ができます。

④ 土壁の表面には、漆喰や土壁の専用仕上げ材を塗り、仕上げます。また、色付けをする場合は、天然の顔料を混ぜた漆喰や、茶色の土壁専用の材料を使用することが一般的です。

上記の④のように、表面を仕上げることを左官と呼びます。
左官に関しては、現代は土壁の表面だけでなく、石膏ボードのうえから塗れる物も出てきて見直されてきています。
以前に、現代見直されている左官とは?で詳しく掲載しているので、ご興味があれば合わせて参考にしてみてください。

 

※参照:日経クロステック

 

【土壁の特徴】

① 健康的で環境に優しい

土壁は、天然の素材である土を使用しているため、化学物質をほとんど含まず、室内環境に優しいとされています。また、土壁は湿気を吸収して排出する効果があり、夏涼しく、冬暖かい空間を作ることができます。

② 耐久性が高い

土壁は、強度があり、地震や風雨にも強いため、耐久性が高いとされています。また、土壁は修繕が容易で、簡単に補修できるため、長期的に考えるとメンテナンス費用も安く抑えられます。

③ 美しく風合いがある

土壁は、風合いが豊かで、自然な表情を持ち、和の雰囲気を醸し出すことができます。また、土壁には独特の質感があり、自然光を柔らかく反射するため、室内を明るく、心地よい空間にしてくれます。

④ 施工に手間がかかる

土壁の施工には、職人技が必要で、手間と時間がかかります。そのため、コストが高くなりやすいです。

 

※参照:西澤工業株式会社

 

【日本建築の間仕切りの特徴】

先述した土壁ができれば、あとは各部屋の間仕切りとして、障子と襖を取り付けます。
明かりを取り入れたいところには、障子を使用して、逆に少し遮りたい部屋には襖を取り付けます。
最大の特徴は、可動式であること。
不要なときは取り外すことができ、大きな空間を作り出せます。

 

※参照;五箇山総合案内所

これは、日本建築の間取り(田の字造り)の特徴で、昔は冠婚葬祭を自宅で行っていたので、必要なときは大きな空間を使え、普段は間仕切りとして、小部屋にもできるという画期的な造りです。
家は、長年住んでいるとライフスタイルに変動があります。
現代の家屋は、ライフスタイルの変化の度に間取りを作り変えるのは難しいですが、田の字造りでは可能でした。
そして、現代になり、その造りが見直されてきています。
以前に間仕切りでリビングを多目的空間へも掲載していますので、合わせてお読みいただければと思います。

※参照:タチカワブラインド

【伝統構法の難しさ】

今まで、古民家・基礎・屋根・構造・壁の日本建築について学んできました。
全ての共通点として、天然の素材を使用していて、日本の気候風土に合った考えつくされた技術なのですが、作り上げるのに手間と時間が掛かるため、コストが掛かります。
コストを抑えるため、大量生産できるもので代用していくと、伝統的な技術をもった職人が衰退し、技術が継承されなくなりました。
結果、本当に良いと思う伝統構法に気づいても、技術を持っている職人が少なくなっていて、今から移行しようとしても、さらにコストが掛ってしまうという悪循環になります。
そのうえ、気候の変動もあり、古来のままの古民家では快適に過ごせないという点も重大な問題点です。
日本建築をこれ以上衰退させないためには、わずかに残された古民家を継承していくことと、お金に余裕がある人は、伝統構法を駆使した工務店で家を建てるという方法があります。
どちらにせよ、ご自身のライフスタイルに合わせた家にゆとりを持って住むことが重要なのかもしれません。
憧れだけで無理をするのではなく、メリット・デメリットをしっかり知っておくことが大事であることは間違いないでしょう。

 

※参照;宮内庁