コラム
2023/2/15すべて
日本建築を学ぶⅣ ~木造建築の構造とこれからの可能性~
今までに、古民家とはどういうものを指し、どういう屋根で、どういう基礎をしているのかを学んできました。
そして、今回はどんな骨組み(構造)をしているのかを学んでいこうと思います。
日本建築を学ぶ ~古民家と現代住宅の違いとは~
日本建築を学ぶⅡ ~茅葺屋根と現代屋根の違い~
日本建築を学ぶⅢ ~伝統構法の石場建てと在来工法の基礎工事の違い~
【木造建築の種類とメリット・デメリット】
ここでも、まず伝統構法と在来工法の違いを知る必要性があります。
あくまで、木造建築のみに焦点を当て、代表的な3つの工法について簡単に説明していきます。
① 伝統構法(伝統工法)
日本古来より伝わる建築工法で、木組みの柔軟性を活かした木造工法です。
すなわち、木組みそのもので家を建てるということで、壁に力を求めず、単なる間仕切りと考え、大きな木を柱と梁として力強く組み合わせることによって、耐力を生み出す考え方です。
そして、柱と梁同士の接合部を金具などで固定せず、地震などの揺れを吸収して、受け流す特徴があります。
<メリット>
●同じ強度の木材同士をつなぎ合わせて、一体化させ、圧倒的な強度を生み出せる。
●許容範囲を超えた地震の揺れでも、全倒壊はしない。
●木のみで組むため、金属より劣化し難い。
●解体して組み直すこともでき、移設やメンテナンスが容易。
●木だけで造るため、環境に優しく、見た目も美しい。
<デメリット>
●防火・耐水性に弱い。
●手作業が多く、工期が長くなる。
●現代では木組みを扱える職人が少なく、コストが高くなる。
●手作りのため、隙間が多くなりやすいため、断熱・機密性能が悪い。
●職人の技術差による影響が出やすい。
② 在来工法
建築基準法制定時に、昔からの伝統工法に対し戦後復興期以降の西洋建築のシンプルかつ大量生産の思想を取り入れた木造構造を木造軸組工法と呼び、在来工法と総称しています。
伝統構法との違いは、柱同士の接合部にボルトやプレートなどの金具を使用して、柱同士を強固に固定します。
地震などの揺れには、その堅牢さで真っ向から抵抗する特徴があります。
そのため、揺れが許容範囲を超えた場合、一気に倒壊する可能性があります。
<メリット>
●建物形状などの設計に、自由度が高い。
●リフォームや増改築がしやすい。
●開口部が広く取れる。
●施工業者数が多く、比較的に施工が容易。
●伝統構法より、コストが抑えられる。
<デメリット>
●耐震・防火・耐水性に弱い。
●風雨による劣化やシロアリ等の害虫被害も鉄骨やコンクリートに比べて受けやすい。
●職人の技術差による影響が出やすい。
●工期は長くなりやすい。
●ツーバイフォーより、コストが掛ることが多い。
③ ツーバイフォー(2×4)工法
ツーバイフォー工法は、2インチ×4インチの規格材と面材を組み合わせて作った板同士を接合して家を作ります。木造枠組壁工法とも呼ばれます。
1階の床から壁、天井、2階の床から壁と、下から上へ木箱のように面を組み上げ、壁や天井全体で柱や梁の役割を果たすことで、高い耐震性を実現する工法です。
ツーバイフォー工法は構造がシンプルで規格が統一されているため、在来工法のように専門的な技術を高めずとも短期間で建築が可能で、品質が安定しやすい傾向にあります。
在来工法とよく比較されます。
<メリット>
●面で構成することにより、耐震性・耐風性が高く、建物全体の強度が高い。
●面で構成することで、隙間が生まれ難く、気密性・断熱性・耐火性が高い。
●もし発火しても、枠組材が一定の間隔で組み込まれているため、火の進行を防げる。
●安い保険料で火災保険に加入できる。
●品質が安定し易く、工期が短く、コストが抑えられる。
<デメリット>
●間取りの自由度が低い。
●柱でなく、壁で全体を支えているため、リフォームが難しい。
●開口部を大きく取れない。
●高気密・高断熱であるがゆえに、内外の温度差が大きくなるため、結露が生じやすい。
●結露が生じやすいため、カビ・ダニが発生しやすい環境になることがある。
【建築構造の種類】
木造建築の代表的な構造について述べましたが、現在の構造は大変種類が多く、メリット・デメリットも各々違います。
建てた後に、構造自体を変更することは難しく、基本的には建て直しとなります。
建築構造により、間取りの変更が難しい場合があるため、家族の増減や生活スタイルの変化に伴い、日本では約30年で住み替えられるか取り壊されることが多いのです。
そうなると、全ては一旦取り壊されて廃棄され、また新たな資材を使用して作り直すということになります。
環境への配慮が必要とされている現代では、少し考え直さないといけないのかもしれません。
【伝統構法の古民家は移築再生が可能】
某有名TV番組などで、『この家は○○から移築した』という表現を聞いたことはないでしょうか?
伝統構法で造られた古民家は、木だけで造られているため、解体して組み直すことが可能なのです。
① 解体移築
解体移築は、建物を一度解体して別の場所に移し、再度建て直す方法です。
解体した古材を全て洗浄した後、傷んだ部分を差し替えたり、ゆがんだ継手の部分を補強したりしながら、一本一本再び組み上げられるように加工していきます。
この方法では、海外へ輸出する試みも行われています。
② 吊り上げ移築
解体せずにクレーンで建物を持ち上げ、吊り上げる移築工法です。
基礎部分からクレーンで持ち上げ、住宅を吊り上げた状態で移動するため、長距離向きではなく、同じ敷地内や短距離の移築作業に適している方法です。
③ 曳家による移築
丸太やレールなどを使いその上を住宅が転がるという曳家工法による移築。
建物を解体することなく傷つけず、状態を保ったまま移築させる工法で、同じ敷地内に限定される移築工法です。
現在、青森県の弘前城が、この曳家工事中です。石垣を修復後の2025年に、また元の位置へ戻される予定です。
【SDGsな古民家再生】
この日本建築シリーズで、何度も出てくる『昔の人は偉かった』と言う言葉ですが、本当にそうだなといつも実感します。
日本の気候・風土にあった天然素材を使用して家を建て、地震に耐えられる構造をあみ出し、また再利用できるようにできています。
移築しなくても、解体を丁寧にすることで、古材だけを再利用や売買することもできます。
【なぜ伝統構法が衰退したのか】
古民家は、本当によく考えつくされた建物です。
しかし、衰退してしまった理由の一つには、火に弱いという点が挙げられます。
昔は火をよく使う生活スタイルだったので、当然火災に強い家に目を向けてきた結果として、現代の住宅があります。
どちらが良いとかではなく、家を数十年で使い捨てにするより、今ある物を大切にして、残していけるものは残して行こうとすることが大事ではないでしょうか。
それがSDGsに、そして伝統を守ることにも繋がるように思います。
【燃えない木材の可能性】
木造建築は燃えやすいということで、近年あまり進展してこなかったのですが、最新のテクノロジーを駆使して、不燃木材への研究が進んでいます。
不燃材料については、建築基準法で火災が起きたとき、以下の3つが定義されています。
① 燃焼しないものであること。
② 防火上有害な変形・融解・亀裂その他の損傷を生じないこと。
③ 避難上有害な煙またはガスを発生しないものであること。
そのうえで、以下の3つの基準があります。
① 不燃材料 20分間火災に耐え得るもの。
② 準不燃材料 10分間火災耐え得るもの。
③ 難燃材料 5分間火災耐え得るもの。
木材を不燃とするには、製材後に不燃薬剤に一定期間浸しておく「浸漬工法」が一般的です。
木材を不燃へ変える技術が色々と出てくるなか、それに合わせて建築基準法も見直されてきています。
そのため、木造で設計できる建築物の幅は広くなり、デザイン上もより自由になりました。
これらの木材を不燃にする技術を進化させていく中で、現在の古民家へのリフォームやリノベーションでも応用していけるようになれば、『木造建築=燃えやすい』という概念が変わっていくかもしれません。
伝統的な社寺仏閣や古民家を火災で焼失することは、未来にはなくなるかもしれません。
そして、それらが木造建築の新たな発展になることは間違いないでしょう。
※以前に、木材を不燃にできる一例として、日本の最先端建材 ~無機質コーティング『液体ガラス』~でその技術を詳しく述べていますので、是非参考にしてみてください。
【古民家は究極のエコ住宅】
自然に逆らわず良い物を長く使う考え方を根本とする伝統木造建築物は、究極のエコ住宅と言われています。
今ある伝統構法で建てられた古民家は、木造建築のうち1%ほどしか残っていないそうです。
世界に誇れる日本古来の技術を後世に伝えるためにも、価値や存在を多くの人に知ってもらい、末永く残していきたいものです。