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2022/11/11お役立ち情報

日本建築を学ぶⅢ ~伝統構法の石場建てと在来工法の基礎工事の違い~

日本建築を学ぶシリーズは3回目になります。
今までに、古民家と現代住宅の違い茅葺屋根と現代屋根の違いを記述してきました。
そして、今回は家の土台となる基礎について学んでいきたいと思います。

 

※出典:BAJANE

 

【基礎工事とは】

そもそも家の基礎というのは、建物を支える土台部分のことです。
主に、家の重さを地面に伝えるという役割があります。
この土台を作る工事を『基礎工事』と呼びます。
基礎工事にはいくつかの種類があり、その建物が建つ地盤の硬さなどによって、工法も変わります。
今回は、一般的な『直接基礎』について、焦点を当てていきたいと思います。

 

※出典:宮崎県

 

【基礎工事の変革】

① 掘立柱建築

古代の日本では、地面に穴を掘り、くぼめて礎石を用いず、そのまま柱(掘立柱)を立て、地面を底床とした建物が主流でした。
そのため、古代は基礎という概念がありません。
床面が地面にあるものを平屋建物、地面よりかなり高い位置にあるものは高床建物と呼ばれます。

 

<メリット>
●柱の太さに関係なく地震・台風にある程度耐えることができる。
●建築費が安上がりで、技術的にも簡略な方法による大量生産が可能である。
<デメリット>
●柱が腐りやすいという欠点があり、耐久性に欠ける。

 

※出典:神宮司庁

 

伊勢神宮は、『掘立柱建築』のため20年に一度の式年遷宮が行われます。
つまり、耐久性は約20年といえます。

 

掘立建築の耐久性を欠くというデメリットを補うため、土の上に石を置き、その上に柱を建てる『石場建て」が生まれました。

 

② 石場建て

石の上に柱が乗っているだけの構造です。
柱の下に置かれた石は礎石(そせき)と呼ばれ、石と柱が固定されていないことが特徴です。
石場建ては礎石の上に柱を固定させずに据え置くため、柱の太さを太くして、屋根の重みで建物全体を安定させる必要があります。
また、柱の上の屋根との接点を複雑に組んで、地震や台風の外力を分散させる柔構造の構法です。

 

<メリット>
●耐久性が高い。
●現代で言う免震構造と同じ原理で、石の上をすべることで、地震力を逃がす  ことが可能。
●柱が外から見えるため、傷んでしまった時に、早期発見・修繕が容易である。
<デメリット>
●精度の高い構造計算や建築技術を必要とする。
●一つ一つの工程を丁寧に行う必要があるため、確認申請期間や工期が長い。
●工期が長いことや、木組みができる腕のいい大工さんが必要なため、費用が高くなる。

 

※出典:パブリックドメインQ

 

石場建ての耐久性は、世界最古の木造建築『法隆寺』が約1300年経っても現存することで、証明するまでもないでしょう。
ただ、これにはかなり精度の高い構造計算、精度の高い作業が出来る大工さんが必要です。
そのうえ、かなり長い工期が必要なため、費用は膨大になります。
そのため、昔の一般家屋については、安易な石場建てが乱立してしまいました。

 

安易な石場建ては、耐久性に欠けることがあり、倒壊等の危険があるとして、一定の基準を設ける必要があるとされ、建築基準が出来たのです。
そのため、現代の一般住宅では、建築基準法のもとで、ベタ基礎か布基礎のどちらかを採用していることが主流です。

 

※出典:クレバリーホーム

 

【現代の基礎工事】

① 布基礎

日本の一般家屋に昔から使われてきた基礎です。
基本的に柱や壁部分のみに基礎を配置します。

 

<メリット>
●コンクリート使用量が少なく、コストが抑えられる。
●ベタ基礎よりも縦に長いので、荷重を受け止め易くなる。
●ベタ基礎より基礎自体が軽く、軟弱な地盤の場合などは、地盤に掛かる負荷が少ない分、構造計算上、有利に働くことがある。
<デメリット>
●床下空間が低いことがあり、メンテナンスの点検や修繕が困難な場合がある。
●基礎の安定性が地盤の強さに左右されやすい。
●木材の腐食やシロアリ被害のリスクが高い。

 

※出典:ミサワホーム

 

② ベタ基礎

現代の一般家屋に多く採用されています。
家の床下部分全体にコンクリート打設をして作られる基礎です。
また、床下のコンクリート部分まで鉄筋が入っている点も特徴です。

 

<メリット>
●建物の重さを地面全体に分散する。
●地中からのシロアリ侵入を防ぐ。
●地面からの湿気を防ぐ。
●耐久性が高い。
<デメリット>
●コンクリートや鉄筋の使用量が多く、コストが高い。
●新築から1〜2年はコンクリートから水分が出るため対策が必要。

 

※出典:クレバリーホーム

 

【コンクリート基礎の耐用年数】

前述してきた中で、現在主流のベタ基礎・布基礎・SRC基礎の全てにおいて、コンクリートを使用しています。
コンクリート基礎の耐用年数は、30~60年とされています。
住宅基礎に使用されているコンクリート自体は、半永久的に持つとされていますが、鉄筋が錆びて強度が落ちるためです。

 

※出典:アストロホーム

 

【日本の住宅寿命は平均30年】

耐用年数はあくまで基準であり、実際に住めないというわけではありません。
しかし、日本では耐用年数より早く建て替えられたり、住み替えたりすることが多いのが実情です。
もしくは、高齢になってから、退職金などで大規模なリフォームをする場合もあります。
これは、西洋の住宅寿命に比べてかなり短いのです。

 

※出典:報道ニュース

 

理由としては、下記などがあるようです。

① 国民性として、綺麗好きで新しいものを好むことが多く、新築が好き。
② 子供の成長や独立、または家族構成が変化し、使い勝手が悪くなる。
③ 高度成長期に次々に住宅を建築したため、質より量を優先して、耐久性を重視していない。
④ バブル期も土地売買が活発化して、土地の上に建っている古い建物は壊されて、土地だけの売買がされた。
⑤ 住宅寿命が短いため、中古住宅の売買が活発化されなかった。

 

【現代日本家屋の課題】

前述してきたことから、日本の住宅寿命は短く、取り壊しや建替えが行われる度に、大量の廃棄物を生み出しています。
世界最古の木造建築を造れる技術を持っているのに、実に悲しい状況です。
SDGsがいわれている今、見直す時期に来ているのかもしれません。

 

※出典:リフォーム産業新聞

 

耐久性の高い建物を造れば、住まなくなってもリフォームやリノベーションをして、次の人が住めるようにできます。
そのためには、建物の土台となる基礎工事が大事なことは言うまでも有りません。
基礎や構造がしっかりしていれば、何回でもメンテナンスをして、何年経っても売買ができるのです。
近年は、築年数の古い住宅需要も少しずつ増加してきています。

 

※出典:住宅研究所

 

【伝統構法や古民家を見直す時代】

大量生産できて、格安な新築を考えるより、今ある資源を大事にできる方法を考えていかないといけない時代です。
現在の住居を自身の代だけで終わらせることを考えるより、後世に残せる住宅にしていくことが大事なのかもしれません。

そして、何年も建ち続けている家屋は、価値がなくなるのではなく、付加価値が付くという考え方に変えていければと思います。
例えば、築1300年の法隆寺が、建物価値0円なんてことは無いですよね。
もちろん金銭的な部分は出来る範囲が限られますが、今ある古民家(伝統構法)は、できるだけ残していきたいものです。

実際、伝統構法で新築を建てることを専門にしている設計事務所や、伝統構法で建てられた古民家をしっかりリノベーションできる工務店は、思うほど少なくはありません。
大事なのは、信頼できる設計事務所や工務店、そして腕のいい大工さんを見つけることが重要です。
費用は高くなることが多いですが、それだけの価値があり、安心できる建築物であることは、現存する古民家や神社仏閣が物語ってくれているのではないでしょうか。

 

※出典:㈱木造建築東風

 

建物の耐用年数は、基礎の耐久性で決まります。
家を建てる際は、先ずは基礎からしっかり考えることをお勧めします。

 

※出典:はすみ工務店