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2022/7/8お役立ち情報

日本の最先端技術 ~次世代素材『セルロースナノファイバー』~

【ガラスより軽くて丈夫な透明の木材『シースルーウッド』】

木材が透明になることはご存じでしょうか?
実は、以前より研究は進められているのですが、コスト・強度・環境への配慮とういう面で課題があり、実用化へは少し遠いイメージでした。

しかし、スウェーデン王立工科大学(KTH)の繊維・ポリマー技術部門に所属するラース・ベルグルンド氏ら研究チームは、オレンジの皮を補強材に使った環境にやさしい透明木材を開発しました。

 

<左>シースルーウッドの以前のバージョン<右>柑橘類で開発された今回のシースルーウッド ※出典:PHYS.ORG

 

木材は基本的に、植物繊維の主成分である「セルロース」と、セルロースを結合して強度を生み出す「リグニン」の2つで構成されています。
木材を透明にするには、木材に含まれる成分「リグニン」を除去しなければいけません。
リグニンを除去した木材は透明になるものの、それだけでは剛性がなく、建築材料として機能しません。
従来の透明木材は、化石資源由来の「ポリマー」が補強材として利用されていました。
ポリマーとは高分子化合物のことで、プラスチック材料であるPP(ポリプロピレン)やPE(ポリエチレン)などがその一例です。
ただしこれでは資源に限界があり、持続可能とはいえません。

※出典:ADVANCED SCIENCE

 

そこで研究チームは、ポリマーの代替品を新しく見つけることにしました。
新しいアプローチでは、化石資源由来のポリマーの代わりに、アクリル酸リモネンが用いられます。
これはオレンジなどの柑橘類の皮に豊富に含まれている成分です。
アクリル酸リモネンにより補強された透明木材は、1.2mmの厚さで90%の光透過率と、非常に低い30%の曇り度を実現したとのこと。

もっとも重要なこととして、オレンジを使った透明木材は174MPa(メガパスカル)の強度と17GPa(ギガパスカル)の弾性があります。
これは建築物の桁(けた)や梁(はり)として十分利用できる数値です。

※出典:Celine Montanari

 

さらにアクリル酸リモネンはオレンジジュース業界の廃棄物をリサイクルして得られるとのこと。
ベルグルンド氏によると、新しい透明木材は、スマートウインドウ、蓄熱用木材として利用でき、照明アプリケーションとしての可能性も秘めているとのこと。
現在、研究チームはさらなる可能性を求めて、透明木材の活用法を調査しているようです。

その他にも、各国で透明木材が研究開発されています。
ただ、日本はと言うと、あまり力を入れて研究されている感じではありません。

 

【透明にもなる木材『セルロースナノファイバー(CNF)』】

各国で、木材を透明にする研究開発がされている中、日本はというと、木材から透明なものも作れるセルロースナノファイバーの導入に力を入れています。

セルロースナノファイバーとは、植物由来の次世代素材です。

木材から化学的・機械的処理により取り出したナノサイズの繊維状物質で、軽さ、強度、耐膨張性など様々な点で、環境負荷が少なく、既に自動車、家電、住宅・建材などへ活用され、また普及を期待されています。

※出典:環境省

 

セルロースは全ての植物細胞壁の骨格成分で、CNFは植物繊維をナノサイズまで細かくほぐすことによって作られます。
CNFは木材などのバイオマスから得られる繊維を1ミクロンの数百分の一以下のナノレベルにまで高度にナノ化(微細化)した世界最先端のバイオマス素材です。
CNFの特徴を生かして様々な分野での活用が研究され、すでに実用化されています。


【セルロースナノファイバーの用途】

セルロースナノファイバーは、その形状や特徴的な物性により、フィルター部材、高ガスバリア包装部材、エレクトロニクスデバイス、食品、医薬、化粧品、ヘルスケアなど様々な分野において利用が期待されています。

※出典:日本製紙

 

【セルロースナノファイバーの特徴】

① 軽くて強い。
② 超極細の繊維(繊維幅約3nm)である。
③ 比表面積が大きい。
④ 熱による寸法変化が小さい。
⑤ ガスバリア性が高い。
⑥ 水中で特徴的な粘性を示す。
⑦ 環境にやさしいバイオマス素材である。

【セルロースナノファイバーの課題】

多様な特徴を有するCNFであるが、普及に向けた最大の問題は、既存材料と比較すると高価(3,000~10,000円/kg)であることです。
CNFの価格を下げるためには、量産効果が得られるレベルで大量に消費する用途を見つける必要があります。

※出典:NEWS PICKS

 

CNFと類似している材料として炭素繊維が挙げられます。
この炭素繊維を樹脂に複合させた炭素繊維複合材料(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)は、1970年に工業生産が始まりました。
初期の用途はゴルフシャフト、釣りざお、テニスラケットなどのスポーツ用品でしたが、2011年就航のボーイング787および2014年就航のエアバス社A350XWBでは、CFRP適用率が機体構造重量の50%を超えるに至っています。
多くの航空機用工業材料で採用され始めたのは、工業生産が始まってから40-50年での出来事です。

CNFは、大学の研究室で基礎研究が始まってから10-15年しか経っておらず、その詳細な構造も明らかになっていない新規材料です。
炭素繊維のケースと同様、CNFの普及にも一定程度の年月を要すると思います。
しかし重要なことは、ブレークスルーポイントを超えるまで諦めないことではないでしょうか。
炭素繊維でも、他国が研究開発を中断する一方、日系企業が開発を続けた結果として現在の地位があります。
情熱を持ち、粘り強く取り組む姿勢は、日本がこれまで得意としてきた形のはずです。
過去の研究からも、イノベーションのほとんどは「諦めなかった人」が実現していることが分かっているので、是非研究を続けて欲しいですね。

※出典:NEWS PICKS

 

【天然素材を活かしたモノづくりの世界へ】

木材を透明にして、研究開発が進む『シースルーウッド』。
木材から、透明なものまで、幅広いモノ作り出せる『セルロースナノファイバー』。
どちらにしても、天然の資源を活かした次世代素材です。

これからもっと、研究開発が進んでいくことは間違いないでしょう。
どんなものでも新しく作られるものは、大量生産ができないためコストが高くなるのは仕方ないですよね。

そのうえ、長年研究されていかないと、長い目でのリスクも実際には分かりません。
アスベストの様に、大きなリスクを抱えていたケースもあります。
ただ、継続して研究開発されないことには、分からないことだらけなのです。

今後はより一層、環境に配慮された素材や自然に戻る素材が注目されていくことだけは確かでしょう。
未来の住居がどうなっていくのか楽しみですね。

※出典:fubiz