コラム
2022/6/10お役立ち情報
日本の最先端技術 ~2022年『3Dプリンター建築』元年~
【3Dプリンターとは】
その名の通り、3次元データを基に、断面形状を積層することで、立体造形を作れる機械のことです。
現在では、試作品・製品・部品・フィギュアなどに活用されていて、住宅が建てられるまでに進化してきています。
将来的には、宇宙船・宇宙服・人工骨・人工臓器などにも応用が出来るかもしれないと注目されています。
【3Dプリンター住宅】
数年前から、世界では3Dプリンターで造られた家が建てられています。
施工期間・建築廃材・人件費など全てにおいて、抑えることが出来るとして注目されています。
実際に、スラム対策・ホームレス対策・災害後の仮設住宅として開発が進められています。
米航空宇宙局(NASA)では、月や火星に人類が住むことを想定して、3Dプリント住宅の設計コンペを開催しています。
【3Dプリンター住宅の建築方法】
① 大型3Dプリンターで造る。
巨大な3Dプリンターを住宅の建設予定の場所に設置し、そこで材料を積み上げ建設する方法が一つ目の方法です。
仮設足場を建て、3Dプリンターを設置して現場で3Dプリンターを使って建設します。
一般的な建築の場合であれば、多くの職人や時間が必要です。
しかし、3Dプリンター住宅の場合、3Dプリンターのオペレーターと数人の作業員がいれば、作業できます。
② 凝固剤を使用して削り出す。
砂のような素材に凝固剤をかけて固めた建材を、掘り出していく建設方法もあります。
実際に使われる素材はさまざまで、詳細な建築方法は素材によって異なります。
新興国や災害現場などで使う場合、現地の材料を使うこともあるようです。
ただし、強度面で他の工法のほうがメリットがあるため、別の工法で建てるのが一般的です。
③ 工場でパーツごとに生産する。
3Dプリンターが設置されている工場でパーツを生産し、現地で組み合わせていく方法もあります。
特にマンションのような、巨大3Dプリンターでも設置できない大きさの住宅を建てるのに向いた方法です。
【3Dプリンター住宅のメリット】
① 建築コストが安い
3Dプリンター住宅は従来の建築方法と比べると数十分の一、数百分の一ほど、建築コストが抑えられる点が特徴です。
米国NPO団体「New Story」では、1棟4,000ドル(約42万円)で建設可能だそうです。
このNPOでは、ハイチ共和国などの国で、2,000棟以上の3Dプリンター住宅を建設しています。
② 人手がかからない
3Dプリンター住宅の建設は従来の建築方法と異なり、人手をほとんど必要としません。
現場では3Dプリンターではできない作業を補助するために、職人の手を必要とします。
一般の住宅では、大工だけでなく水道工事、電気工事などにも多くの職人が必要です。
建築業界は技術を持った人間が不足しており、人材の確保が大きな課題です。
3Dプリンターの導入は建設業界の人手不足の解消につながります。
③ 建築スピードが速い
3Dプリンター住宅は建築期間が短いことが特徴です。
建築期間24時間ほどで建てられた事例もあり、通常の住宅では不可能なスピードで住宅が建てられます。
そのため、少しでも多くの家が必要な災害現場や、住宅がない人たちの仮住まいとしての需要が期待できるでしょう。
建築コスト削減にも貢献しています。
④ 曲線の建築物を造れる
3Dプリンターは曲線のように形状が複雑な住宅でも、対応しやすい点がメリットです。
曲線を活用することで、狭い土地での建築やデザイン性が高い住宅の建築に活用できます。
一般的な建築方法では、曲線の住宅はあまり建てられていません。
職人の技術に頼る部分が多く、時間やコストがかかってしまうためです。
家を建てられる面積が限られている場合や、ほかにはないデザインを求める人に3Dプリンター住宅は需要があるでしょう。
【3Dプリンター住宅のデメリット】
① 基礎工事に対応できない
3Dプリンター住宅は、日本の住宅の基礎工事に対応できない点がデメリットです。
日本の建築方法では、鉄筋を内部に入れて強度を上げる必要があります。
しかし、現状3Dプリンターはコンクリートの造形は可能なものの、鉄筋を入れるなどの作業に対応していません。
日本は地震大国とも呼ばれており、地震に耐えられる強固な基礎が必要不可欠です。
将来技術が進化することで鉄筋を入れられるようになる、または同等の強度に対応できる可能性はありますが、現状基礎工事はこれまでのやり方で対応することになります。
② 住宅設備工事に対応できない
3Dプリンターは住宅の構造を作れるものの、住宅に欠かせない、電気やガス、給水・排水などの住宅設備はできません。
これらの作業は壁に穴を開ける、配管や配線をするなど、時間と手間がかかる作業です。
そのため、住宅設備工事には今後も人手が必要になるでしょう。
大工職人の需要は下がる可能性がありますが、住宅設備工事ができる職人の需要は高まる可能性があります。
③ 日本の建築基準法に適合しない
3Dプリンター住宅の施工方法は、日本の建築基準法に対応しておらず、法律から観点から導入できません。
コンクリートに使用できる素材や工事方法が定められているからです。
3Dプリンターで使われる建材は特殊なモルタルなどで、建築基準法の既定にない素材です。
そのため、3Dプリンターの導入は法制度が整わない限り、難しいでしょう。
日本で3Dプリンター住宅を導入しようとする試みはあるものの、本格的に導入された事例はありません。
将来的に法整備が整うまでは、3Dプリンター住宅の建設は建築確認申請が不要な現場に限られます。法制度の改正に期待したいところです。
【日本で3Dプリンター住宅を作るには壁がある】
日本で3Dプリンター住宅を建築する場合、建築確認申請が不要な場合は可能です。
築確認申請が必要な現場の場合、3Dプリンター住宅の仕様が建築基準法と適合しないため、建築できません。
・建築確認申請が不要になるのは以下の場合です。
1. 10平方メートル以下の建築物であること。
2. 増築・改築・移転であること。(新築の場合は不可)
3. 防火指定のない地域(防火地域・準防火地域以外の地域)であること。
【日本初の3Dプリンター建造物】
前述の流れでは、まだまだ日本では、3Dプリンター建築は不可能と思われたと思います。
しかし、日本初となる「3Dプリンターを使った建築許可を得た建築物」が、2022年2月ついに建築されました。
建築の設計を請け負ったのは『MAT』一級建築事務所、建築用3Dプリンターを開発する『Polyuse』との共同事業で施工されました。
国内建築現場の生産性を向上させる『PRISMプロジェクト』の一環です。
建築基準法で定められる建築確認申請が必要となるのは10㎡より大きな建造物だが、今回建築されたのは17㎡の建造物です。
この建築物は、事前に3Dプリンターで作った12個の部材を組み合わせて作られました。
※『PRISMプロジェクト』とは…
官民研究開発投資拡大せれんでぃくすプログラム(PRISM)は、平成28 年12 月に総合科学技術・イノベーション会議と経済財政諮問会議が合同で取りまとめた「科学技術イノベーション官民投資拡大イニシアティブ」に基づき、600 兆円経済の実現に向けた最大のエンジンである科学技術イノベーションの創出に向け、官民の研究開発投資の拡大等を目指して、平成30 年度に創設された制度です。
建築用3Dプリンターで部材を造形する作業と並行して、群馬県渋川市の建築予定地における基礎打ちを実施。
現地での組み立てはわずか2日で終了。
旧来2カ月強かかるような建築を、約1カ月で終了させ、大幅な工期短縮を実証したのです。
群馬県渋川市内に建てられたこの建築物は、「倉庫」として活用されるということです。
その他に、兵庫県西宮市にある企業『セレンディクス』が10平米の建造物を2022年3月、愛知県小牧市に完成させました。
先ずは、グランピング利用として展開を予定されているようです。
完成したのは「Sphere(スフィア)」と名付けられたプロトタイプ。
広さ10平米の球体状で、今後はこれをもとに改良されていくそうです。
広さは10平米で、完成までの所要時間が合計23時間12分、300万円で販売予定とのこと。
「セレンディクス1社で3Dプリンターの家をつくろうとしていたら、課題だらけだったでしょう」とセレンディクスCOOの飯田国大さんは話す。
スフィアのデザインをしたのは、ニューヨークの曽野正之とオスタップ・ルダケヴィッチのデザインを、実際の図面に落とし込んだのは、ヨーロッパにいるチーム。
さらに日本の耐震基準を通せる形に修正したのは、コンソーシアムに所属する日本の専門家。
そして海外で書き出し(印刷)を行ったのは中国とカナダだったという。
その上で、今回の施工時には、日本でコンクリート住宅を長年扱い、ノウハウをもった企業「百年住宅」が参画することで、1パーツ6トンにもなる壁を難なく取り扱えるようになった。
「コンソーシアムに参加してくださったのは、30年ローンで住宅が販売されている時代の限界を感じている人たちの集まり」とのこと。
中には大手住宅メーカーなどの人もいて、未来の住宅にまつわる環境づくりに協力したいと考えているのだという。
最初に量産向けにつくられる10棟の用途はグランピング。
10平米を超えない場合、現行の建築基準法外の建物と扱われ、水回りはない。
さらに2022年8月には、一般向けの販売もスタートさせるそうです。
【2022年はまさに日本での3Dプリンター住宅元年】
このように、今年から本格的に、3Dプリンター建造物が日本でも建てられています。
建築基準の問題もありますが、実際に建てられて分かる課題も多くあるようです。
しかし、前述させていただいた『セレンディクス』COO飯田国大さんは、慶應義塾大学の研究機関と一緒に開発を進めている通称「フジツボハウス」は、2023年春には500万円以下の価格で販売開始予定と発表している。
「2025年以降、すべての人から住宅ローンを無くしたいと思っている」と話す飯田さん。
今、さまざまな企業が着目し、開発を進めている3Dプリンターの家。
3Dプリンターの家によって世界中の住宅問題を解決できる日がくるのか、待ち遠しいですよね。
設備や間取りなど、顧客の需要にどこまで対応できるのかは、まだ分かりません。
耐久性についても、実際に住んでみないと分からないことだらけではあります。
ただ、値段が500万円ほどに抑えられると、車の様に、生活環境に合わせて家も買い替えるような未来がやってくるかもしれません。
特に、災害が多い日本では、災害時に期待が持てるかもしれません。
そして、3Dプリンターを使いこなすことで、復元できなかったものや、不可能と思われる建物を造れる可能性があります。
後継者がいなくなり、技術を受け継ぐことが困難な建築技法を受け継ぐのは、3Dプリンターかもしれません。
今後の動向を注目していきたいですね。